彼女に何があったのかなんて、ぼくが一番良く知っている。

なにせ、火種はほかでもないこのぼくにある。


今から5日前、彼女にお腹の中に子供がいることをなぜ言わなかったのかと怒鳴り、今朝も彼女の話を無言であしらった。


――彼女が泣いていたのは、ぼくのせいだ。

ほかでもないこのぼくが彼女を苦しませている。

そう思うと、ぼくの心までも苦しくなる。

だけど、母さんの話の内容はどこか過去形のような気がする。

その場にいないぼくでも、母さんは美樹ちゃんと一緒にいるんじゃないということだけは理解できた。


だったら今、母さんはどこにいるんだろうか。

自分の家に帰ったのか、それともぼくの家にいるのか……。

それが後者なら、美樹ちゃんはいったいどこに行ってしまったんだろう。



『彼女がぼくの家からいなくなる』

それを想像しただけでも胸が押しつぶされそうに痛み出す。

どうしようもない苦しみの中、ぼくは感情に負けじと口を開いた。


「どういうこと? 母さんは今どこにいるの?」

やはりぼくは母さんの子供だ。

同じように早口になって問いただしてしまう。


「私は貴方の家にいるに決まっているじゃない! 美樹ちゃんが貴方の家にいないのにお昼寝をしている祈ちゃんを放って帰れるわけ無いでしょう?」


仕事に出ているぼくは我が家の状況を知らないのにも関わらず、なぜそんなこともわからないのかとヒステリックに責められる。