彼女からの電話の内容というものは、まさかとは思うがやはり美樹ちゃんのことしか浮かばない。

母さんは美樹ちゃんがぼくの家に住むようになってから、やけに我が家に入り浸りになり、毎日のようにこうして電話をかけてくる。

話題はもっぱら美樹ちゃんについてのことばかりだ。


内容は、『年齢もまだ若いのに祈ちゃんの相手ができて素晴らしい子』だとか、『祈といる姿を傍から見ているとまるで本当の親子に見える』だとか。

『美樹ちゃんには恋人はいないか』だとか……。


……何なんだ。

祈といい、母さんといい。


二言目には必ずと言っていいほど、『美樹ちゃん』ばかり。

彼女はどこに行っても誰からもお気に入りだ。


そうは思うものの、ぼく自身もここ最近は一日中彼女のことばかり考えているのもたしかだ。

同じようなものかもしれない。

「どうしたの?」

電話越しから漂う雰囲気がどこか少し慌てているように思うのは気のせいだろうか。

こうして母さんと話していると、ぼくの心臓がドクドクと早鐘を打ち、言い知れない何かが抜け落ちていくような気分になるのはなぜだろう?


眉をひそめてぼくが尋ねると、母さんは大きく息を吸い込み、鉄砲玉のように言葉を放ち続けた。


「きっと私の気のせいだと思うんだけれど、それでも美樹ちゃんの様子が気になってしまって。貴方、彼女に何かあったのか知らない? 泣いてたみたいなのよ」