電話を取り出すため、カバンの中を手探りで探していると、カランと弁当箱の乾いた音がした。
彼女が作るご飯はいつもとても美味しい。
今日の弁当にも、祈(イノリ)がすっかり好物になってしまったタコさんウィンナーに卵焼き。それに手作りのおからが入っていた。
冷凍食品ではない、手の込んだ優しい味がする彼女の弁当――。
彼女の言葉にうまく返事ができないぼくのせいで居心地が悪い空間の中、彼女はいったいどんな気持ちでこの弁当を作ってくれたのだろう。
それを考えただけで胸が苦しくなる。
今朝も彼女は気を遣って話しかけてくれたのに、自分のこの気持ちに整理がつかず、ずっと考え込んでいたぼくはふたつ返事しかしていない。
どんなに心細い思いをさせてしまっているのかということはぼくだってよく理解している。
それに祈の教育上、こういう態度を見せるのもよくない。
だが、この感情をどう理解すればいいのかがよくわからない。
一向に鳴り止まない着信を知らせる携帯をようやく見つけ、あまりにも上の空だったおかげで表示画面を確認することなく通話ボタンを押した。
「もしもし?」
「もしもし潤(ジュン)? 貴方まだ仕事? いったいいつまで仕事なの!?」
ぼくが声を出せば、早口でまくし立てる見知った声が聞こえてきた。
日下部 端月(クサカベ ハヅキ)、ぼくの母親だ。