久しぶりにスーツを着てみると、どこか新鮮な感じもする。


気分を落ち着かせるため、ひと呼吸して玄関のドアを開けようとノブに手をかけた瞬間、見計らったかのように家のチャイムが鳴った。

この時間帯で家のチャイムを鳴らすのは、きっとあの人だ。



あたしは一度引っ込めた手をドアノブに伸ばし、玄関を開けると、案の定、そこには大きな目をした細身の女性が立っていた。


潤さんの母親の日下部 端月(クサカベ ハヅキ)さんだ。


「美樹ちゃん? どこかに出かけるの?」


「あ、はい……」

スーツ姿に黒のカバンを持つあたしを見た端月さんはあたしに尋ねてきた。

その問いにコクンとうなずき、余計な詮索はされたくないので穏やかににっこり微笑む。

すると、端月さんも微笑み返してくれた。

どうやら怪しまれずにすんだみたい。

あたしは内心ほっと胸を撫(ナ)で下ろす。


「あまり無理してはだめよ?」

ひとりの体じゃないんだから。

彼女の言葉にはそう言いそうな雰囲気があった。


あたしのお腹の中に赤ちゃんがいることを知っている彼女は、あたしが否定しているからだろう。

問い詰めもせず何もなかったかのように見守ってくれる。

彼女の優しさに胸を打たれながら、あたしはまた深くうなずき返した。


「大丈夫です、少し急用を思い出してしまって。祈ちゃんをお願いしてもいいですか?」