その姿がお腹の赤ちゃんを抱きしめているようにも見えるからとても不思議だ。


もしかすると、彼女は直感的にあたしのお腹の中に赤ちゃんがいることを感じ取っているのかもしれない。


寝返りをうち、穏やかに眠っている祈ちゃんと向き合うと、とても優しい気持ちになることができた。


あたしの口元には最近忘れ去っていた笑みさえも広がっている。


だけど、その穏やかな感情は長くは続かなかった。

ふいに鳴り出した冷たい電話の呼び出し音が消し去ったんだ。


あたしは祈ちゃんを起こしてはいけないと、重い体を起こして頭上で鳴っている携帯電話に手を伸ばす。


もしかしたら不動産からいい物件が入ったという知らせかもしれない。

ディスプレイを覗けば、そこには麻生 慶介(アソウ ケイスケ)の文字があった。


――そういえば、イザコザのおかげで彼の電話番号を削除するのを忘れていたと、今さらながらに気がつく。

彼はあたしがまだ中絶していないことを知っている。

なにせ、赤ちゃんをおろすのに必要な同意書を書いてもらっていないんだものね。


用意周到な慶介のことだ。

きっと私立探偵でも雇ってあたしの身の回りのことも調べさせたのかも。

彼ならやりかねない。


だったら、あたしは中絶する気はないと彼に言わなければ!!

そして、慶介とは今後一切かかわり合いにはならないとはっきり言おう。


決意したあたしは通話ボタンを押して電話に出た。