だけど、彼は笑い返してくれるどころかどこか遠い目をしてあたしを見ようともしない。
それでも、優しい彼は「ありがとう」とお礼を言ってくれる。
こんなバカなあたしにさえ、貴方はまだ優しい言葉をかけてくれるんだね。
そんな彼の優しさが――情けが――今のあたしにとってはとても切なかった……。
ここでお世話になるもっぱらのあたしの仕事は祈ちゃんと潤さんの見送り。
そして潤さんの手が届かない食事の用意とたまに布団干し。
だけど、今日からはもうひとつしなければならないことができた。
でも、これは仕事でもなければ趣味でもない。
仕事先と新しく住む家を探すことだ。
仕事先の方は、たぶんパートなら問題ないと思うからそれでいいとして、問題は住む家。
いくら潤さんがこの家にいなさいとそう言ったとしても、もうここには住むことはできない。
あたしがいることによって、自分の家なのに潤さんも祈ちゃんも落ち着くことができないんだ。
あたしがここにいなければ、きっと彼らは楽しく笑い合って過ごせるんだもの。
あたしは早々にいなくなるべき存在だ……。
そうは思っても、不動産屋さんに通い詰めているのにいい物件はなかなか見つからない。
無理もない話だと自分でも思う。
だって、あたしの探している物件っていうのが――。
女手だから当然就職しても手取りはすくないだろうし、家賃が安くないと難しい。
それに加えて、お腹も大きくなるだろうから階段が少ないところがいいし。



