『ごめんなさい』と、心の中で謝ることしかできない自分が情けない。
「ねぇ? おねいちゃんとパパ、けんかしてるの?」
「えっ!?」
子供はとても正直だ。
今まで、潤さんと一緒に祈ちゃんを幼稚園まで送っていたから、突然それを止めてしまうのはおかしいと思い、手をつないで前を歩くふたりを後ろから見守っていると、突然祈ちゃんが質問してきた。
それに困ったのはあたしと潤さんだ。
なんて答えようかと思っていると、祈ちゃんはまた口を開いた。
「パパ、またでりかしーがないこと、いったんでしょ」
「いや……うん……」
なんとも煮え切らないようなうなずきを見せる潤さんの姿に、横を向く祈ちゃんは片眉をヒクつかせていた。
「おねいちゃんにあやまってね? パパはおとこなんだから!」
祈ちゃんはそう言うと、並木道の先にある幼稚園が見えたところで繋いでいた潤さんの手を離し、そうして門まで駆けていった。
ごめんね。
仲直りできそうにないや……。
あたしは小さくなっていく後ろ姿に心の中で謝った。
祈ちゃんを幼稚園に送った後、帰り道もやっぱり無言のまま、あたしと潤さんは家に戻った。
家に戻ってそれから何をしたのか、正直何も覚えていない。
それくらい、あたしの頭の中は真っ黒いもので覆われていたんだ。
潤さんの出勤時間になって、いってらっしゃいと声をかけるため玄関に立ったあたしはいつも通り作ったお弁当を渡す。



