……ごめんなさい。

近いうち、必ず出ていきます。



あたしは胸の内でそっと彼に告げ、そのまま目を閉じて夢の中へと入った。

せめて眠りの中だけでも幸せな夢を見よう。

そう、自分に言い聞かせて――……。



――――――。

――――――――――。



翌朝、目を覚ましたあたしは昨日、一方的に怒鳴られたものが夢の中だったらと淡い期待をしていたものの、その期待は破られる。



祈ちゃんがいる手前、無視なんてできないからだろう。

潤さんはあたしににこりと微笑んでくれるどころか、「ああ」や「うん」なんていうそっけない態度ばかりだった。



彼女がいなければ、きっとあたしは彼に無視されるか昨日のように怒鳴られているはずだ。

……あたしはそこまで嫌われてしまったんだろうか。


そう思えば涙があふれてくる。

だけどここで泣けば、あたしはもっと惨(ミジ)めな気分になる。

それに、あたしの傍には祈ちゃんがいる。

大人が泣けば、傍にいる子供はかなり不安になる。


だから泣いちゃいけない。

あたしは目に溜まっていく涙をそっと拭(ヌグ)い、いつものようにキッチンの前に立って朝食の用意とお弁当を作る。


だけど、どんなにあたしが頑張ったって言い知れない沈黙が朝食を摂っているあたしたちを包んでしまう。

あたしがいるばかりに、祈ちゃんにまで不快な思いをさせているのかもしれない。