あたしが彼の立場なら、他人の子供を身ごもっている上で自分の家に住まわれるのは迷惑だと思うもの……。
これはすべてあたしの不手際が原因だ。
潤さんに言わなかったあたしが悪い。
そして何より、慶介の存在よりも大きく膨れ上がってしまった潤さんへの想いのせいだ。
――でも、これだけは誤魔化すことなんてできない。
貴方が好きだという、この想いだけは本当なんだよ?
起きてしまった祈ちゃんをもう一度寝かしつけるため、寝室に戻るその途中、ぼそりとつぶやく彼の声が聞こえた。
「君はここから出るべきじゃないし、君はぼくが雇ったんだ。家賃だって食費だって、君の給料だってぼくが支払っている。ぼくの言うとおりに動いてもらう」
後ろから聞こえたその言葉は、潤さん自身が意味を理解していないように聞こえた。
彼も何かに戸惑い、困惑している。
それはきっと、あたしの面倒を最後まで見ようとする潤さんの優しい理性とあたしを邪魔者だと思う率直な彼の心だ。
潤さんから去ったあたしは目をつむり、祈ちゃんの傍で横になる。
瞼(マブタ)の裏に見えるのは、真っ暗な闇ばかりだ。
沈黙という静けさの中、玄関のドアが閉まる音がどこか遠くの方で聞こえた。
きっと、潤さんが外に出て行ったんだろう。
本当はあたしの方が出て行かなきゃいけないのに、優しい彼はあたしに出て行けとそう言わず、自分のやり場のないあたしへの怒りを鎮(シズ)めるために外へ飛び出した。



