だって、あたしがこの家から出ていけばいいだけの話でしょう?


それなのに、彼はそうじゃないと言う。

慶介のように、あたしを切り捨てるような言い方をしない。


――まるで、あたしが全部打ち明けなかったことを怒っているみたいだ。

だけどどうしてそれで怒るの?


だって、潤さんとあたしは赤の他人。

一緒に暮らしているけれど、それは一時的なもので、永続的じゃない。

だから彼に頼ることはよくないことだ。

最終的には彼から離れ、あたしはこの家から出ていかなければいけない。



そんなことは誰よりもあたしが一番理解している。


それなのに、潤さんの言葉だと、あたしは永続的に傍にいてもいいっていうことにならない?



――ううん、そんなことはありえない。

きっとあたしが自分のいいように解釈しているだけだ。


潤さんは優しいから、黙って見過ごすことができなくて、ただあたしが不安だったことを言わないのを責めているだけだ。


でも……だったら……。


彼はなぜ怒っているの?



「……なあに?」

冷たい空間に不似合いな寝起きのふんわりした声が聞こえて、あたしは、はっと我に返った。


シンクと向き合う体を反転させ、目の前にいる潤さんをあらためて見ると、彼は両手に拳を作り、何かと戦っているように見えた。

――戦っているのはたぶん、赤ちゃんがお腹に宿っていることも言わず、何食わぬ顔をして彼の隣にいたあたしへの苛立ちだろう。