……もっと、無邪気な祈ちゃんと過ごしたかった。


こみ上げてくる涙をなんとか堪(コラ)え、あたしはまた口を開く。


「だいじょうぶです……あたし、明日から家を探すつもりですから。潤さんにご迷惑はおかけしません」

――本当は、大丈夫なんかじゃない。

ここを出ていくと思うだけで、あたしの胸が張り裂けそうに痛み出すし、働く職場さえも決まっていない上に赤ちゃんを身ごもっている状態でひとり暮らしをすることになるのはとても不安だ。


それになにより、大好きな祈ちゃんや潤さんと会えなくなるのがとても辛い。

だけど、あたしにはそんなことを言う資格なんてない。

浅はかな考えで自分のお腹の中に命を吹き込ませた愚かな母親だ。

この代償は支払わなくてはいけない。


「そういうことを言っているんじゃない!!」



目頭が熱くなるのを我慢して、言葉をなんとか喉に詰まらせながらも伝えたら、だけど彼は突然大声を出して怒鳴った。


潤さんが放った声で空気が反応して、台所という名の空間がビリビリと音を立てる。


彼の発した言葉で、夏場なのにもかかわらず、空気は一気に冷たくなった。


正直、とてもびっくりした。


だって、たった数日だったけれど、あたしと一緒に暮らした今まで、潤さんが怒鳴った場面なんて見たことがなかったから……。


だけど、ねぇ。

どうして彼はこんなに怒っているの?