なにせ、今日も昨日に引き続き、彼の母親である端月(ハヅキ)さんがこの家を訪れた。

そしてあたしはタイミングよくつわりを起こした。

彼女はきっとあたしのお腹に赤ちゃんがいることに気づいているはずだ。


2人目の赤ちゃんができたことがとても嬉しそうだったから、そのことを早速潤さんに伝えたんだろう。


仕事から戻った潤さんがずっと思い悩んでいたのは仕事のことでもなければ家のことでもない。

あたしのことだったんだ。


だけど、もう少し待って。

もう少しだけ、一緒にいさせて欲しい。

せめてあたしの住む家が決まるまで……。


往生際(オウジョウギワ)が悪いあたしは心の中で自分にそう言い聞かせ、何も知らないフリをして口を開いた。


「なにが……ですか?」


たぶん、あたしに赤ちゃんがいると自ら明かせば、潤さんはあたしとの関わりをもつことを嫌がるだろう。



そう思うと、胸が苦しくなって言葉が喉にひっかかる。


「しらばっくれなくてもいい。子供、いるんだろう? 慶介(ケイスケ)とかいう奴の子供が!! 君のお腹の中に!!」

彼の言葉に、とうとう食器を洗うあたしの手が止まってしまった。

これじゃあ、しらばっくれることもできない。

――もう、傍にさえもいられない。


両想いになりたいなんておこがましいことは言わない。

だからせめて、目を細めて優しく微笑みかけてくれる潤さんをもう少し見ていたかった。