こんなに大声を出せば寝室で寝ている祈(イノリ)が起きるだろう。

そう思うのに、この感情は止められない。

ぼくは、それほどまで、ひとりで全部を抱え込もうとする美樹ちゃんに対して苛立ちを覚えていた。



「……なあに?」

案の定、ぼくが出した大声で寝室から祈が起きてきた。


彼女は小さな手を拳にして目を擦(コス)りながらやって来る。


「なんでもないの……ごめんね、おこしちゃったね」

美樹ちゃんはそう言うと、小さな背中を押して寝室に行こうと誘う。


祈と美樹ちゃんが寝室に向かうこの光景があまりにも自然だと感じるのはなぜだろう。


ぼくは……あまりにも腹の居所が悪くて眠る気さえも起きず、そのまま立ち尽くす。


「君はここから出るべきじゃないし、君はぼくが雇ったんだ。家賃だって食費だって、君の給料だってぼくが支払っている。ぼくの言うとおりに動いてもらう」


なんという自分勝手な物言いだろうか。

彼女の背中に告げたその言葉があまりにもひどいものだと自分自身でも気がついた。


――違う。

こんな言い方をしたいんじゃない。

これでは彼女は機械か何かで、ぼくはその彼女を制作した者みたいじゃないか。

だったら、どう告げればいいのだろう。

彼女になんと話せばいいのだろう……。


ぼくは少し頭を冷やすべきだ。


自分自身の言葉で打撃を受けたぼくは玄関へと向かい、家を出た。