だが、今はいつも以上に彼女の話す内容を理解できない。

「いや、母さん、ちょっと待ってくれ。美樹ちゃんのお腹に赤ん坊ってなに?」


「えっ!? あなた知らないの?」

とうとう理解するのに限界を感じたぼくは、なおも止まらない彼女の話しを遮った。

すると、次に驚いたのは母さんの方だった。


「知らないも何も……だってぼくは彼女と夜を……その、共にしたことは……」


言葉がまごついたのは、深夜、ぼくが美樹ちゃんを組み敷く姿を連想してしまったからだ。

彼女とふたりきりで夜を過ごすというありもしないイメージが頭の中に浮かんでしまった。


――ああ、だから違うって!!


頭を振って浅ましい考えを打ち消すと、次に過ぎったある思考に、はた、と止まった。


ぼくは彼女と寝てはいない。

美樹ちゃんのお腹には赤ちゃんがいるという母さんの判断が間違っていないとするならば、思い当たることはひとつしかない。

彼女の身の上に起こった出来事を考えればすぐに導き出されることだ。


そういえば、彼女の感情はいつも情緒不安定ではなかっただろうか。


――ああ、なぜそのことに気づかなかったんだろう。

彼女が身ごもっているのだとするならば、おそらく、家庭があるにもかかわらず美樹ちゃんに手を出した愚かな麻生 慶介(アソウ ケイスケ)の子供だ。



もし、それが真実なのであれば、なぜ美樹ちゃんは今まで何も言わなかったんだろう。