「それよりあなた、どうして何も言わないの?」

母親、端月の言葉に、ぼくは眉をひそめた。


「は?」

言わない?


ぼくは彼女にいったい何を言わなかったのだろうか?

意味がわからない。


だいたい、母さんはとても察しがいい。

後でバレるのも面倒だと、秘密は作らないようにしている。



ぼくは黙り、これが電話だということも忘れて首をかしげると、母さんはいっそう声を弾ませた。


「しらばっくれなくてもいいのよ。彼女、美樹ちゃんのお腹に貴方の子供がいるんでしょう?」


…………は?


母さんの話の内容を知るために尋ねたのに、彼女の言葉を聞いて内容を知るどころか、ますます理解できなくなった。


ぽかんと口を開け、電話している今のぼくはとても間抜け顔をしているに違いない。



「今日も貴方の家にお邪魔したのよ? そしたら美樹ちゃん、身ごもっているじゃない!! お赤飯炊かなきゃ!! 家に寄ってくれない? いまから用意するわ。ああ、それから結婚式は挙げるの? 貴方は二回目でも彼女は違うものね。もうプロポーズはしたのかしら? 昨日の今日だものね、まだしていないわねきっと。潤、あなたプロポーズしなきゃいけないわよ!? 彼女はまだ貴方の感情のこれっぽっちも知らないんだからっ!!」

彼女はとてもおしゃべり好きで、そして口が達者だ。

鉄砲玉のように言いだしたら止まらない彼女の言葉を聞き取るのは、ぼくが幼い頃からずっと困難を極めていた。