どこか遠くの方でチャイムの音が鳴っているのを聴きながら、それでも半ば意識を手放してしまう。


音に反応した祈ちゃんはたぶん、訪問者に挨拶をするつもりだ。小さな足音が小さくなる。

そうしていくらか誰かしらと祈ちゃんが話す声がここまで聞こえたかと思ったら、次にはまた小さな足音がこちらへやって来た。


「美樹ちゃん、風邪ひいたの?」

明るい声は昨日よりもずっとトーンを落とし、優しい声音で横になっているあたしに尋ねてきた。

この声は知っている。潤さんのお母さんの端月(ハヅキ)さんだ。



「あ、いえ。そうじゃないんですが……」

夢見心地な頭を働かせ、もうそろそろ起きなければと布団の中で体を動かせば、祈ちゃんがあたしの肩を押さえてくる。


「だめっ!! かぜひきさんはねてるの!!」

あたしは祈ちゃんの気迫に押し負けて、苦笑しながらまた横になった。


「そうね、体調が悪いのなら休んでおかなくちゃね」

端月さんも祈ちゃんに同意すると、彼女はうんうんとうなずいた。

別に体調が悪いわけじゃないんだけどな……。


頭上に置いている目覚まし時計をちらりと見ると、時間は12時を過ぎていた。


お昼ご飯の時間だ。

「ご飯作らなきゃ」

あたしがひとりごとのようにそっとつぶやくと、端月さんは腕まくりをして立ち上がった。


「それじゃあ、昨日ご飯を作っていただいたお礼に今日は私が作ろうかしら」