「……祈。おまえ、本当にそんな言葉をどこで覚えてくるんだ?」

潤さんは困った様子で大人びた彼女を見下ろした。

祈ちゃんはまだ5歳なのに、大人顔負けの達観した物言いをする。

なおも無言で対峙している祈ちゃんとタジタジになっている潤さん。


目の前にいるふたりを見ていると、なんだかその光景がとてもおかしくて、笑いがこみ上げてきた。

いけないと思いつつ、それでも我慢できなくて、あたしはとうとう吹き出してしまった。


その場に不似合いな笑い声を聞いたふたりは、なおも笑い続けるあたしに視線を寄越(ヨコ)してくる。


「ごめんなさい、大丈夫です。お仕事行ってきてください」

笑わないようにと思うのに、それでも声をあげて笑ってしまう。

失礼だと思いながらも、ついつい笑いながらそう答えてしまった。


そんなあたしの目に浮かぶのは、自己嫌悪からくる悲しいものじゃなくって優しい涙だ。

人差し指で目からあふれる涙をぬぐい、そう伝える。


「いや、だけど……」

「せくはらはいいの。イノがおねいちゃんのことみるから!!」

なんとも煮え切らないような雰囲気を見せる潤さんに、さらに祈ちゃんは攻撃を仕掛ける。


彼女のその言葉で、また笑いがこみ上げてきた。


祈ちゃんはかなり毒舌だ。



「よかった、笑ってくれて」


あたしの笑い声ばかりが玄関に響く中、何かをぼそりとつぶやく潤さんの声が聞こえた。


「えっ?」