side:Jun Kusakabe



「行ってくるけど……本当に大丈夫?」

台所にある小窓から朝日が玄関を照らす中、ぼくはいったい何度目になるだろうその言葉を口にする。

時刻は朝8時をまわったところ。


今日は依頼された事務所でモデルの写真撮影がある日だ。

基本、ぼくは祈(イノリ)のこともあるから、事務所との契約は午後からということにしているのだが、今日はモデルの方に急遽(キュウキョ)仕事が入ったらしく、午前中に撮影してほしいとの要求が今朝、食事中に電話が入った。

本当ならその要求はぼくと事務所の契約には入っていないので取り消すことも可能ではあるが、ぼくが世話になっている派遣会社には祈が熱を出した時に仕事を休ませてくれたりなど融通(ユウズウ)を利かせてくれている。

派遣会社には何かと世話になっているのもたしかで、社長にはかなりの恩義がある。


それに、今日のモデルの撮影は何ヶ月も前から依頼されていた。



今さら断ることもできず、仕方なくその要件を呑(ノ)むことになった。


――そして、平日の今日も祈は、当然のことながら幼稚園に行かなくてはならないわけで……。

ぼくはこんな調子で朝から家にはいない。


そういうことで、今日はぼくの代わりに美樹(ミキ)ちゃんが祈を幼稚園へ送ってくれることになった。

美樹ちゃんとは、赤の他人で、5日前の日曜日に知り合った女性だ。