6階建てのコンクリートマンションを囲むように、たくさんの植木や色とりどりの花々が囲んでいる。


ここを出る時は景色を見る余裕なんてなくて何も思わなかったけれど、このマンションはとてもあたたかな雰囲気をしている。


あたしがいた社宅とは大違いだ。


これからのことを考えればとてつもなく苦しくもなるけれど、それでも潤さんの優しい申し出のおかげで今朝よりもずっと気分は晴れやかだ。

今朝だってここに戻ってきた時と同じ道をたどったはずなのに、心もちが全然違うせいか、頭上に広がる青空と真っ白な雲がとても清々しくてあたたかい気持ちになれた。


数時間前はもうここには戻らないと決意したのに、それが嘘のようだ。


何気なく横にぶら下がっている自分の両手を見下ろす。


今さらながらに何も持っていなかったことに気づいた。



そういえば貴重品なんかが入っている自分のバックはまだ車のトランクの中に入れていたままだ。


そう思って車の方を見ると、潤さんがちょうどトランクから取り出してくれているところだった。


そうして彼は着替えやら化粧道具やらが入ったあたしの大きな旅行用カバンを肩にかけ、先導して歩いてくれる。


その仕草があまりにも当たり前のように感じ、息を飲んでしまう。

家族を持ったら、こんな感じなのかな……。


潤さんと祈ちゃんのおかげで、有りもしない幻想を抱いてしまう。

こんなあたたかな家族が欲しいと望んでしまう。