祈ちゃんは朝ご飯も食べずにあたしを見送ってくれた。だから当然、その時間も頭に入れておかなければいけないわけで……。
ああ、大変だ!!
祈ちゃんが幼稚園に遅れちゃう!!
急かされたあたしには、もう目に溜まる涙も悲しい気持ちもすべて消えていた。
あるのは、あたしのせいで祈ちゃんが幼稚園に遅れるという事態だけだった。
でも、潤さんが何を言ったのかわからない。
なんと返事をすればいいのだろう。
焦る気持ちは募るばかりだ。
「えっと……えっと、あの!! えっと……!!」
あたしの口から繰り返されるのはひとつ覚えのそればかり。
しばらくあたふたしていると、潤さんはとうとうしびれを切らしたらしい。
涙のおかげでほっぺたにへばりついたあたしの横髪をそっと取り除きながら、口をひらいた。
「じゃあ、制限時間は5秒ね。
それまでに返事がなかったら、承諾したっていうことで」
祈ちゃんと同じ目をしている彼はそう言うと、あたしの目の前に拳を突き付けた。
え? 5秒?
承諾って何を?
「あ、あの!!」
「い~ち」
彼はそう言って、慌てふためくあたしの前にある拳から人差し指を立てた。
対するあたしはまたもや彼の言っている言葉がわからず、ただただしどろもどろになって口ごもる。
「ええ? えっと……」
「に~」
そんなあたしを尻目に、潤さんは続けて中指を立たせた。
えええええっ!?
本当になんて答えればいいの?



