すると今度は悲しみの涙じゃなくて、あたしをすべて包んでくれるような、あたたかな涙がこみ上げてきた。
「美樹ちゃん、お願いだから泣かないで。どうすれば泣き止んでくれる?」
その声はとても困っているみたい。
だけど泣き止むなんてそんなの無理。
だってあたしの胸。とってもあたたかいもの……。
彼があまりにも優しいから、だからあたしは口をひらく。
あたしは潤さんが思ってくれるような綺麗な存在じゃないって――……。
優しくしてもらう権利なんてないんだって――……。
そういうことを知ってもらうために、あたしは昨日、自分の身に降りかかった出来事をあらためて口にするんだ――。
「あたしね、不倫されてたの……」
「うん」
「彼ね、麻生 慶介って言って……あたしが勤めていた会社の次期社長さんで……」
「うん」
「親の反対を押し切ってひとり上京してきたあたしにたくさんいろいろなことを教えてくれて、とても優しくてくれたの」
「……うん」
「慶介と、付き合ってた」
「……うん」
「だけど……慶介には奥さんがいて、家庭が大切だから別れてくれって……」
「……うん…………」
「さっきの女の人、慶介の奥さんだったの……」
「うん………………」
……あたしは汚れている。
慶介はあたしを不倫相手にして、遊んでいた。
それなのにあたしは彼の赤ちゃんを身ごもり、彼なら家族になってくれると盲目的に信じこんでいた。



