殺されるとか、そんなの嫌だ。

「やっ、いやっ!!」

あたしは恐怖で縮こまった体をなんとか動かして、力強い腕から逃れようと身じろぎする。


「いやぁああああ!!」


こわい、こわい、こわいこわいこわい!!


だれか助けて!!



「美樹(ミキ)ちゃん……」


恐怖でもがくあたしの頭上。

そこから放たれた声音は男の人のものだった。

その声はとても優しくて、それなのに今のあたしと同じくらい傷ついているみたい。

『傷ついている』ってそう思ったのは、あたしを呼ぶ声がとても震えていて、潰れそうな声音だったからだ。


それに、聞いたことのある声だと思うのは気のせいなのかな……。

あたしの名前を呼ぶ声と一緒に振動が伝わってくる。




ふと脳裏に過ぎったのは、ある人の顔……。

弧を描いている唇から放たれる言葉は聞き取りやすくて、優しい声音をしたその人――。


――あたし、この声、知ってる。


今朝方まで一緒にいた、小さな天使のお父さん。


日下部 潤(クサカベ ジュン)さんだ。




じゃあ、じゃあ、この腕は潤さんのもの?




あたしの体に回された腕が誰によるものなのかを理解した瞬間だった。

回された彼の腕から伝わってくる体温で、恐怖で冷え切っていたあたしの体が熱を持ちはじめ、あたたかくなっていく……。


あたしは騒ぎ立てるのを止めて、枕に突っ伏して泣いていた顔を持ち上げた。