「パパ、おねいちゃん。ほんとうのこと、いってない!!」
本当のこと?
――それは、ぼくの胸で泣いていたあの時のことだろうか。
ふとした瞬間に見せた悲しげな瞳……。
――ああ、そうだ。
彼女は――美樹ちゃんは想っていた男性に裏切られたんだ。
きっと今、とても苦しんでいるはずだ。
そう思った瞬間だった。
ぼくの目の端で玄関のドアが勢いよく閉まったのが見えた。
静寂が支配する中で聞こえたドアが閉まる音はとても悲しい音に聞こえた。
その音を聞いただけで胸が痛む。
ドアが閉まる冷たい音が頭の中で何度も鳴り響いた。
「パパ!!」
祈はふたたびぼくを呼ぶ。
ああ、そうだね。こうなったら乗り込んだ船だ。
最後まで付き合おう。
早く追いかけろと催促する祈に、ぼくはうなずく。
心の中であらためて決意すると、セメントで固められたように感じた足はすんなりと動いた。
ぼくは右足を踏み出し、美樹ちゃんが入っていった部屋まで走った。