美樹ちゃんの気迫と言い知れない寂しさを感じたぼくは何と言っていいかわからず、沈黙してしまった。

それがいけなかったんだと気がついたのは、そのすぐあとだ。

美樹ちゃんはぼくを一瞥(イチベツ)し、背中を向けて歩きはじめた。


彼女に叩きのめされたぼくはといえば、閑散(カンサン)とした廊下で呆然と立ち尽くしていた。




――――彼女に拒絶された。




そう思うと、両足がセメントで固められたように一歩も動けない。

ぼくはただ去っていく美樹ちゃんの背中を見つめていた。



「パパ…………パパ……」


静寂が訪れるその中で、祈がぼくを呼んだ。


視線を下へ向けると、祈はぼくのシャツの袖をぐいぐい引っ張っている。


「パパ、はやく。おねいちゃんいっちゃう!!」


美樹ちゃんはぼくを拒絶した。

それなのに、祈はまだ諦めていなかった。


この子は、まだ美樹ちゃんを想っているんだ。


だけど、ぼくは……。


急かす祈に向けて、静かに首を振った。

祈はおそらく美樹ちゃんの言葉を理解できなかっただけだ。

理解していればとても落胆していたと思うし、傷ついていたと思う。


だって彼女は、ぼくが身体を求めているのだとそう思っていたのだ。



それじゃあ、ぼくはいったい彼女とどういう関係を求めていたのだろうか。

そう訊(キ)かれると、ぼく自身もよくわからない。

だけど少なくとも、ぼくは美樹ちゃんとそういった関係を結びたかったわけではない。

それだけは確かだ。