ぼくの言葉は美樹ちゃんの張り詰めた声にかき消された。


ぼくは彼女の問いに何と答えていいかわからず、口を閉ざす。

すると美樹ちゃんは怒り狂った目を向けてきた。




どうしてここへ来たのかなんて、そんなのはぼくの方が知りたい。

美樹ちゃんを放っておけないと思い、祈に背中を押された。

ただそれだけだ。


特に深い理由はない。


質問への答えに窮(キュウ)していると、美樹ちゃんは口を大きく開ける。


「あんたもあたしを笑いに来たの? 彼に奥さんがいたのに、それも気づかず本気になったあたしを愚かだと、そう言いに来たの?」



それは美樹ちゃん自身が自分を戒(イマシ)めるための悲しい言葉だった。

彼女は自分のことを汚らわしいと、そう言っているのだ。

ぼくに向けた言葉じゃない。



「美樹ちゃん?」

なぜ、どうしてそういうことを言うの?



そういう言い方はだめだ。

慶介っていう人と不倫していたのだろうということは先ほどの女性との会話で理解できる。

だけど誰にだって過(アヤマ)ちはあるし、それが悪いとは思わない。


「あのね、美樹ちゃん……」

「それとも……そっか、あたしと遊びたいんだ? いいわよ、家に来る? ベッドの上でなら、『愛してる』くらい言ってあげるけど?」


なんとかしてぼくの思いを伝えようと口をひらけば、彼女はまたぼくの口を塞がせた。



「ああ、でもだめね。だって子供が居るものね。居ない時に来なさいな。そうしたら寝てあげる」