ふっくらとした頬が紅色に染まれば、とても優しい聖母のような表情へと変化する。
その美樹ちゃんは今、どういう表情をしているのかといえば……。
やはり彼女も思いもよらないぼくの登場でとても驚いているようだ。
まるで亡霊でも目にしているかのように大きな目をこじ開けている。
「ちょっと、放してよ!!」
どうやらぼくはまた美樹ちゃんに見惚(ミト)れていたらしい。
ヒステリックな声で我に返ったぼくの手にはまだ女性の細い手首があった。
殺伐(サツバツ)とした空気漂うこの場に不似合いなぼくの思考にはほとほと呆れてしまう。
自分に向けて苦笑してしまいそうになるのをなんとか堪(コラ)え、掴んでいた手首を開放してやると、女性はぼくに掴まれた手首をもう一方の手で摩(サス)りながら真っ赤な口をひらいた。
「なに? あんたもこの女の愛人? 子連れで? その子も同意済みってこと? 大馬鹿な男もいたもんね。
……ふんっ、まあいいわ。
慶介はもう金輪際(コンリンザイ)、貴女とは会わないと約束したし、この女とはただの暇つぶしだったらしいし?
じゃあね、せいぜい貴方もこの女に遊ばれないよう気をつけるのね!!」
女性は一息にそう言うと、背中を向けて去っていく。
やがて廊下に響く冷たいヒール音が消え、朝の静けさが周囲を包む中、ぼくは沈黙している美樹ちゃんへと口をひらいた。
「……美樹ちゃ……」
「なんで来たの?」



