しかし、雰囲気は……。
細い体から流れる空気は、とても苦しそうだ。
――やめろ……。
もう、十分だ。
これ以上、何も争うな。
ぼくは止めていた足を一歩、大きく踏み出し、彼女たちがいるところまで歩き出す。
女性が美樹ちゃんの頬へと手を振りかざそうとした瞬間、勢いよく空気を引き裂くその手を、ぼくは掴んだ。
とたんに腕を掴まれた女性はぼくを見上げ、黒目をひん剥(ム)いて視線を寄越(ヨコ)した。
女性は、予期せぬ登場人物で驚きを隠せない様子だ。
そんな女性を間近で見たぼくは、なるほど、と思った。
彼女はとても美人だ。
一重の細い目の中にある真っ黒な両の瞳。
その間にあるすっと伸びた鼻筋はとても利発そうに見えるし、唇は真っ赤で大きい。
艶やかな黒髪はほっそりとした華奢(キャシャ)な体のラインに沿って流れている。
しかし、その女性から醸(カモ)し出ている、どこか冷たい空気は隠しようがないほどひんやりとしてもいた。
ぼくとしては、細身のこの女性よりも、やはり可愛らしい美樹ちゃんの方が好みだ。
美樹ちゃんはこの女性とは少し……いや、大分違う。
茶色のふんわりとした髪。
大きな二重の瞳にちょこんと乗った小さな鼻。
ふっくらした唇が声を上げて笑えば、どれくらいあたたかな雰囲気が流れるだろう。
穏やかな天使のように愛らしい彼女の寝顔――。



