だが、これではあまりにも、あまりにも苦しい。
悲しいじゃないか。
「やめっ!!」
ぼくが慌てて仲介に入ろうと駆け寄れば……。
ふたたび大きな渇いた音が響いた。
今度は目の前の女性が頬を押さえる番だった。
美樹ちゃんが手をあげたんだ。
「よく言うわ。自分の旦那さえも管理できてないくせに!!」
美樹ちゃんが大きな声でそう言った。
美樹ちゃんの予測しなかった行動に、ぼくの足が思わず止まる。
目の前にいる女性もぼくと同じで、まさか美樹ちゃんが叩き返してくるとは思わなかったらしい。
ただ叩かれた頬を押さえて対峙している美樹ちゃんを見つめていた。
それをいいことに、美樹ちゃんは大声でまくし立てている。
「貴女に魅力がないから彼があたしに手を出したんでしょう? それを人のせいにしないでほしいわ!!」
ぼくと美樹ちゃんとの距離は10步は離れている。
それなのに、後ろ手に見てもわかるほど、美樹ちゃんの細い両肩は上下に揺れている。
美樹ちゃんの口から吐き出される荒い息遣いが耳元まで聞こえてきそうだった。
「ふざけんじゃないわよ!!」
しかし、女性は美樹ちゃんに怒り狂い、片手を頭上高々と振り上げる。
これまでにない怒りをあらわにし、ふたたび美樹ちゃん目がけて叩こうとしていた。
そんな中でも美樹ちゃんはとても強気だ。
一歩も引かないその後ろ姿はとても立派だし、怒りをあらわにしている女性と堂々と渡り合っている。



