これでは美樹ちゃんの浮気相手と同じじゃないか。
今、後ろ姿を見せている美樹ちゃんの心はどんなに悲しく、苦しい想いを抱いているのだろう。
――ああ、そうだ。
彼女を助けよう。
そう決意すると、何とも言えない強い気持ちが胸からあふれ出し、外へと解き放たれるのを感じた。
ぼくは今一度決意するとしゃがみこみ、祈と向き合った。
やがて同じ目線になると大丈夫だと微笑む。
それを合図に、祈はぼくから手を離した。
早く行って、という合図だ。
ぼくは立ち上がり、美樹ちゃんの方へと歩いた。
美樹ちゃんの後ろ姿に近づけば近づくほど、緊迫感がジリジリとぼくの肌を刺しはじめる。
「なんとか言ったらどう? 子供がいる他人の夫に手を出すなんて許せない!! この、女狐!!」
……相手はどうやら妻子持ちだったらしい。
なんと節操がない奴だろう。
同じ男としてとても情けない。
そんなことを思いながらもぼくは彼女たちに近づいていく。
けれど女性はぼくに気づきもしないでまだ美樹ちゃんを罵(ノノシ)っている。
だが、事態はそれだけでは治まらなかった。
渇いた音がひと際大きく廊下に鳴り響いた。
その音がしたすぐ後、美樹ちゃんが頬を押さえて立ち尽くし、目の前の女性は怒りをあらわにしている。
女性が美樹ちゃんに手をあげたんだ。
しかし、どうやら女性は美樹ちゃんの頬を一度叩いただけではまだ気がすまないらしい。
勢いよく振り下ろした手をふたたび頭上に掲げている。
また美樹ちゃんを叩く気だ。
どういう経緯でこうなったのかはわからない。
もしかすると美樹ちゃんから相手の男性を誘ったのかもしれない。



