ひどい?

いやいや、そんなことはない。


祈は彼女のカバンの中身を知らないからそう言えるんだ。

まあ、知っていても子供にはそれが何によるものかなんてきちんと理解できないとは思うが……。


「祈、彼女には何かあるんだよ。ぼくは、彼女とは……」

「パパ!! いくじなし!! かいしょーなし!! おくびょうもの!!

だからいつまでたってもママがこないんだ!!」


『彼女とは、もう二度と会うつもりはない』

そう口にしようとすれば、祈はぼくの言葉に被さって大声でそう言った。


祈は今、腰に手を当て、ぼくを睨んでいる。


「もういいよ!! パパがいかないならイノがいくから!!」


そう言うと、祈は器用にロックをはずし、取っ手へと手をかけた。

おい、おいおい、待て!!



「祈!! ここは道路だ、危ないから勝手に外に出るな!!」

ぼくは小さな手によってひらかれそうになったドアの取っ手に手を伸ばすと、再びドアを閉めた。


「だったら、パパ、いってくれる?」

祈はそう言うと、にこりと満面の笑みを浮かべる。


……ハメられた。


そう思ったのは、祈の表情から先ほどの怒りが消え、満面の笑みが顔中に広がっていたからだ。


こんな小さな子供の口車に乗せられるなんて……。

そう思っていても、頭の片隅では『それが正解だと』いう言葉がチラつく。


「わかった、行くよ。祈、お前もおいで……」

車内に子供ひとり置いて外に出れるはずもなく――――。



それで、結局こうなるんだ。



……まったく、祈には勝てない。