祈が言うとおり、ぼくが臆病者のように思えてくる。




「おねいちゃん、ないてたよ? ほんとにおいかけなくていいの?」

美樹ちゃんが泣いていた。

――ああ、それは知っている。

ぼくが帰ってくれとそう言った直後、彼女はものすごい形相でぼくを睨(ニラ)み、洗面所に向かった時。

気になって彼女の後を追いかけてみると、中から声を押し殺した泣き声が聞こえてきた。

それはとてもじゃないが聞いていられないほどの悲痛なものだった。



――いや、待て。

だからなんだって言うんだ。

それとこれとはまったく関係ないじゃないか!!

祈の言葉にうなずきそうになったぼくは慌てて首を振った。


「ないてた!! あさからずっと、くるまのなかでもないてたよ!!」

そんなぼくを尻目に、祈はまた同じ言葉を紡いだ。



――泣いたからといって彼女が決して問題を起こさないとは限らない。

第一、あのカバンの中に入っていた札束はとても怪しい。

何かやましいことを仕出かしたのかもしれないだろう?


「祈…………」

なんとか祈を説得しようと口をひらくものの、しかしそれはすぐに祈の声によって中断させられた。


「パパがなかしたんでしょ? おねいちゃんに、なに、したの? ひどいよっ!!

おねいちゃん、とっても、やさしいひとなのに!!」