固まっているあたしに、慶介はさらに追い討ちをかけてくる。



「俺には妻がいるんだ。それと1歳になる子供も」


な…………に?

慶介はいったいなにをいっているの?

いみ……わかんない。


あたしの体内を駆け巡っていた血液が凍っていく……。

ドクン、ドクン。

心臓は大きく鼓動し、あたしを揺らす。



「だから、美樹。俺と別れてくれ」



慶介はいったい何を言っているのだろう。



あたしは――……。


あたしは、慶介ならお腹に赤ちゃんができたことをとても喜んでくれると、もしかしたら結婚しようって言ってくれると思った。

何もわからない都会でのことや仕事のことを優しく教えてくれたみたいに、お腹にいる赤ちゃんにもそうやって大切にしてくれて、素敵な家族になれると思った。


たくさん大変なことがあっても、それでも3人、仲睦(ナカムツ)まじく笑い合って過ごせるんじゃないかって……少なくともあたしはそう、思っていた。


それなのに……。

赤ちゃんができたことを嬉しがっていたのはあたしだけで、慶介はそうじゃなかった。



今まで嬉しい気持ちでいっぱいだった身軽な体は悲しみでいっぱいになってしまう。

世界中にある重力があたしへと押し寄せ、一気にのしかかってきたように感じた。


これ以上の悲しみはいらない。

苦しいのもいらない。


慶介の言葉を受け入れたくない。


あたしは自分のお腹部分にある服をギュッと握った。

握った服を手放せば、皺になっていることは間違いないだろう。