「洗面所!!」


あまりに苛立ちすぎたおかげで祈ちゃんが眠っているのも忘れてしまっていた。

立ち止まり、怒りに任せてそう言った。



その後すぐ、あたしは台所の隣にある洗面所へと逃げこみ、勢いよく扉を閉めた。

同時に膝は力を失い、体は扉を伝って崩れ落ちる。



『いらない』

言葉こそ違っても、言っていることは慶介も潤さんもそれと同じだ。


たとえ田舎へ帰省したとしても、両親は慶介や潤さんと同じようなことを言うに違いない。

なにせ母も父も、ものすごく世間体を気にする性格なのだ。

『だから都会へ行かせたくはなかった』と責めてくるだろう。


……厄介なものを持ち込んだと言われるのがオチだ。


誰もお腹にいる赤ちゃんを可愛がってはくれないだろう。


この広い世界で、たったひとりだと――孤独だと思い知らされる。

誰にも受け入れてもらえないあたしたち親子の境遇に、思いもよらないほどの絶望という重圧が伸し掛ってくる。



「……………っく、ひっ…………っ」



個室と化した洗面所で、ようやくひとりになれたことを実感すると、激しい怒りの次に襲ってきたのは深い悲しみだった。

悲しみはあたしの胸だけに留まらず、やがて胸から喉へと押し上げてくる。


そして……。


あたしは声を押し殺し、誰にも気づかれないよう唇を噛みしめ、涙を流した――。