甘い旋律で狂わせて

***

「お母さん、また来るわね」


「ええ、今度は永都も一緒にね」



薫さんと、“彼女”の会話は、終始それに尽きていた。



永都先生の話ばかりをして、ただの一言もネオのことを口にしなかった。


まるでネオがこの世に存在しない人間のように……。




「驚いたでしょう?」



帰りの車の中で、薫さんは苦笑いを浮かべながらあたしに言った。



何と、言えばいいかわからない。


いくつもの疑問符が、頭の中を占領している。



どうして?


どうして、“彼女”は永都先生の話をあんなふうに、まるで今でも生きているかのように、するんだろう。



「お母さん、永都が亡くなってから心を病んでね。その事実が受け入れられずに、今でも永都が生きているかのようにふるまっているの。

本当は、わかってるはずなのに。大切な息子の死を、受け入れられないのよ」


ハンドルをギュッと握りしめながら、薫さんは言った。