甘い旋律で狂わせて

「どうしようかな、これ」


あたしはチケットを握りしめながら、停泊する大きな船を見上げた。


少し薄暗くなった空に、ライトアップされた船が美しく海を染めていた。



……もったいないから、一人で乗ってみよう。


そう決めて、大きな船に乗り込んだ。



夕暮れに染まる海に浮かんだ一隻の船は、近づくほどに大きく感じる。


特にイベントごともない平日の春の日、乗客はまばらで閑散としていた。



丁寧に案内されて足を踏み込んだのは

煌びやかなシャンデリアと赤い絨毯の映える広いレストランスペース。


その入口の片隅に、大きなグランドピアノが置かれている。


あたしはそのピアノの、ちょうど正面の席へと案内された。



反対を向けば、窓から夕焼け空と広い海が見渡せる。



「綺麗だなぁ」


春の海は、穏やかな凪の海だった。