甘い旋律で狂わせて

そんなことを考えて、ぼうっと海を眺めていた時。

バッグの中のケータイが振動した。


ディスプレイには悠貴の名前。

あたしは静かに着信ボタンを押し、ケータイを耳に当てた。



『もしもし、花音?』


せわしない悠貴の声が聞こえた。


『悪い、どうしても仕上げないといけない仕事ができたんだ。また別の日にしてもいいか?』



申し訳なさそうな、悠貴の声。


あたしは驚くでもなく、すぐに答えた。



「うん、わかった」


『本当にごめんな。また連絡するよ』


「うん。仕事頑張ってね」



淡々と答え、耳からケータイを外した。



こういうことはよくあったから、もう慣れている。


悠貴は何よりも仕事を一番に優先する人。

だから特に驚くことでもなかった。