甘い旋律で狂わせて

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悠貴と結婚の約束をしてから、数週間が過ぎて。

プロポーズを受けてくれた記念にと、今夜ディナークルーズに誘ってくれた。



だけど……

事前に手渡されたチケットを見て、はぁとため息が漏れる。



どうして、よりによって“ここ”なんだろう。



船が出る港は、いつかの叶わなかったデートの場所だった。



また、あの記憶に心をかき乱される………。



憂鬱な思いで、あたしは待ち合わせ場所の港広場で、夕日をぼうっと眺めていた。



それにしても、ディナークルーズなんてどれくらいぶりだろう。


悠貴はこういうリッチな演出が好きで、食事に行くのも高級レストランばかり。


服装も気を抜く暇さえなかった。


洒落た高級レストランで女を喜ばすことが、彼なりのステータスの現れなのかもしれない。