甘い旋律で狂わせて

「ねえ、永都先生」


あたしに背を向けて、灰皿にタバコの残り火を擦りつける先生。


その背中にそっと近づき、スーツの上着の裾を握った。



「デート、しようよ」


広い背中に向かって言った。




……わかってる。


冗談交じりに、今まで何度もそう言って誘った。


先生は冗談じゃないって気づいてるくせに、

『俺は忙しいんだよ』って、あたしの髪をくしゃくしゃと撫でる。


答えははじめから決まってる。



半ばあきらめたような気持ちで見上げると、先生はいつもと違う顔をしてあたしの顔を見つめていた。


そして、先生の長い指がそっとあたしの唇に触れた。


「先生……?」