甘い旋律で狂わせて

パンと手をたたき、永都(えいと)先生があたしの演奏を止めた。



振り返れば、呆れたように苦笑いをする先生の顔があたしの目に映った。


少し長めの茶髪をうっとおしそうにかき揚げ、切れ長の鋭い瞳があたしを捉える。



「どうしてそんなアップテンポになるわけ?ショパンが泣くよ」



笑いを含みながら、窓際に腰掛ける先生。

胸ポケットから出したタバコに、そっと火をつける。



その仕草があまりに魅惑的で、あたしは思わず目をそらした。



「だって、先生が近くで見てるから……」



照れたように肩をすくめるあたしを見て、永都先生は急にふきだした。



「はっ!?俺、ピアノ教えてるだけだろ」



笑いながらタバコをふかす、先生の細くて長い指に思わず見とれた。


高校のころからずっと教えてもらってるのに、未だにその綺麗な指にドキドキしてしまう。



あたしがピアノを弾く理由。

それは、週に一度永都先生と一緒にいられるから。


あたしが音大に入った理由、

それは先生と同じ大学を出たかったから。


不純な動機だとしても、それだけで先生と繋がっていられるような気がしたんだ。