甘い旋律で狂わせて

あたしはあまり、悠貴に自分のことを話さない。


もちろん聞かれれば話すけれど、自分から話すことはなかった。


ましてや、あの過去のことはとても話す気になんてなれなかった。



たとえ恋人であっても、夫になる人であっても

あの過去にだけは触れられたくなかった。



だけど、悠貴の言葉はそんなあたしの想いとは裏腹に、あの過去を思い出させる。


「俺、花音のピアノ聴いてみたいなぁ」


「えっ?」


「今度弾いてくれよ」



顔が、強張る。



「でも、もう長い間弾いてないから……」


「俺の実家にちょうどピアノがあるからさ、新居に持っていこうか」


「いいよ、そんなの!もう、ピアノは……」



もう、できればピアノなんて弾きたくない。


あの人を思い出さずに、弾くことなんてできないから……