静まり返っていたのが嘘のように一気にざわつく教室内。視線が痛い。
「あー、えーと……」
いくらマイペースな俺でも、さすがにどうしようかと考える。なんて答えたら有馬さんは大人しく帰るだろうか。
いや、もう何を言ったところで手遅れなんだろうけど。
だってクラスメートにとっては“噂の有馬さん”がいきなり2年の教室に現れ、俺に訳のわからない事を話しかけてきているのだ。
噂好きのクラスメートが、これをネタにしない訳がない。
「なんのこと?」と惚けてしまえば、もしかしたら言い逃れできるのかもしれない。“頭のおかしい有馬さん”がいつもの奇行をしでかし、俺が迷惑を被っている。
そういうことにもできるだろう。
むしろ惚けるなんて俺の基本技で、いつもだったらあっけらかんとそうしてる。
だけど、今は何故かそうしたくなかった。
「有馬さん、それ機密事項でしょ?明日の放課後基地に集合でどう?」
もっともらしいことを言ってみる。へらりと笑えば、有馬さんは納得したのか一度大きく頷いた。
「それもそうだな。邪魔して悪かった、では失礼する」
それだけいうと、またピシャンと扉が閉まり、銀色の残像だけが残った。


![オトコイ[詩集]](https://www.no-ichigo.jp/assets/1.0.778/img/book/genre13.png)