「よく出来マシタ。」
「…」
「あの日みたいなことはもう、怖いもんな?」
「っ…!」
私の身体は瞬時に強張る。それは勿論、彼の歪んだ愛に対してのもの。
彼は、希月さんは、私のせいで変わってしまった…。
「き、づきさ…」
やっとのことで紡いだ声は情け無いほどに震えていて。
希月さんはわざとらしく眉根を寄せ、笑う。
「愛してるよ、真子。」
そして、私を自分の胸の中へと閉じ込めた。こんなに強烈で重たい愛情から逃げる勇気なんて今の私にはない。
いや、多分、私は彼から逃げられない。そう何度も実感させられる度に゙あいづの顔が頭をちらつくのは、どうしてだろうか―――――――…
トイレへと消える私の後ろ姿を見つめ、希月さんがぼそり。
「千駿くんには、渡さない。」
そう、呟いていたことを私は知らない。


