完全に閉まったドアの先、希月さんが悪戯に笑った気がした。
「ほんと…」
抜かりがない。ぽつりと呟いた言葉が上昇する箱の中に悲しげに響き胸が苦しくなった。
別に、希月さんが嫌いなわけじゃない。両親がいなくなった私を助けてくれたのは紛れもなく、希月さんであり。
私が野垂れ死ぬことも栄養失調になることも餓死することもなく、今生きているのは希月さんのおかげだから。
それでも、昔の彼とは変わってしまった――…。
いや、正確に言えば゙隠していただげかもしれないけど。
と。
チン、と小気味良い音を奏でながらエレベーターのドアが開く。
エレベーターからおりた私はまだ記憶に新しい希月さんの部屋に向けて足を踏み出した。


