昔よりは知恵だってついてる。私だって、ここで抵抗するような馬鹿ではないはずだ。

そんなことしたら、まず希月さん、笑って怒るから…。



「(それに、もう、)」

口調が変わった……。


真子ちゃん、と私を呼んでいた物腰柔らかな口調がさっき私を゙お前゙と呼んだ。もう素を出してきたのかと直感。



「真子、先に部屋行っといて。」


はい、と握らされたのは部屋の鍵。私はもう一度目の前にそびえ立つそれを見据えた。

何十階あるんだろうかと思うほどの綺麗なマンション。そこの最上階に希月さんの部屋がある。



私は無言で鍵を握り直してマンションの入り口へと歩き始めた。

数歩歩いて、振り返る。



…背中にぞくりとするなにかが走った。

希月さんは一歩も動くことなく、ただ真っ直ぐ私を見ているのだ。最早監視に近いと感じるのは気のせいじゃないと思う。


恐らく彼は、私にその意を伝えようと行動している。