そう呟いた瞬間、音もなく、静かに俺の頬を流れたそれ。
なんだ、あれ、これって、……今まで流れなかったのに。
ぽたぽたと畳へと落ちる雫は、ただ染み込んで消えていく。震える姉さんの背中がとても小さく見えて、棺桶の中で眠る義父さんに俺もそっと歩み寄る。
真子も後ろを着いてきて、俺が姉さんの隣に両膝をついて座ると自分は2人の後ろに座った。
「…姉さん、」
「ッ、…ごめん、なさい。」
「……。」
「親不孝者の娘で、ごめんなさい…」
「(……嗚呼、)」
きっと今、姉さんは深い後悔の中に身を投じている。
俺はそっと姉さんの肩に手を置いて、彼女にしか聞こえないくらいの声で耳元で囁く。
「…姉さん、後悔してる?」
「…、」
「……駄目だよ。後悔なんて、しちゃ駄目だ。」
「希月…?」
俺の言葉に、姉さんは少し訝しげに眉根を寄せたが黙って言葉の続きを待つ。
――――義父さんが、死ぬ前。俺は彼と2人で話をしていた。


