「希月は、私の弟よ。」
「…遊可さん、」
「私達、家族だからね?希月のこと、私大好きよ。」
「……遊、…姉さん。」
ぼそり、聞き逃してしまいそうなほど小さな声。最早吐息の方が勝り、ちゃんと音となったのかさえ不安なそれ。
だが、遊可さんにはしっかり聞こえていたようで。驚いたように目を大きく見開いた彼女は、次の瞬間には大粒の涙を流した。
「希月、ありがとう。」
それは、俺が彼女に一番言わなければいけないことだ。
親に捨てられ初めは中々現実を受け入れることが出来なかった。養子として迎えてくれた藍野さん夫婦、遊可さんはとても優しい人達だ。
でも、境界線を引いていたのは俺。
寂しいなんて、嘆いて。捨てられたと言って、俺自身を受け入れてくれた人達に背を向けた。
謝らなければいけないのは俺。感謝を伝えなければいけないのは俺。
「……姉さん、ありがとう。」
「、」
「俺を弟だと言ってくれて、ありがとう。」
そう言って、無意識の内に泣いていた俺の頭を優しく撫でた遊可さん。
久し振りに感じた温もりが、愛しかった。


