この頃から、父はあまり家には帰ってこず。母の世話を含めて家事全般は私がやっていた。


そこで、手助けをしてくれていたのが当時大学生だった希月さんである。



希月さんは、母の弟だと紹介されていたし。疑いなんて持っているわけがないから、母の言葉に初めは混乱した。




「希月はね、私の本当の弟じゃないの。」

「…どういうこと?」

「希月は、山瀬さんという家から藍野、…お母さんの実家に引き取られた養子なの。」

「……養、子。」



そう、と頷いた母は私の頬を撫でる手を止めて今度はゆっくりとベッドの横に膝をつく私の手を握った。

母は何か緊張すると、人の手を握る癖がある。




「山瀬さんの家は、何故か希月を養子に出した。希月には、確か真子より2つ上の兄弟がいたはずなのに。」

「、」

「希月だけを、家から追い出すように。」

「……酷い。」

「ええ。それでも、希月はいつだって笑ってた。あの子は強い。私としても、本当の弟だと思ってるしね。」