立ち止まり私に向き直った千駿は、嫌味な笑みを絶えることなく私との距離を一気に詰めてきた。
驚き一歩後退すれば、千駿は一歩前進。どうやら距離が開くことを許す気はさらさらないらしい。
「なあ、真子。」
「……何。」
「俺今ね、滅茶苦茶腹立ってんの。」
「…、」
「真子傷付けられたのもそうだし。でも1番は、真子が俺じゃなくて希月さん頼ったこと。」
するり、千駿の指が私の頬を撫ぜる。冷たいそれは私の目尻に触れそのまま髪を梳く。
冷たいけどやけに優しいその温度が、どこか心地良い。
「真子、俺はね。相手が誰であってもお前が傷付けられることだけは許せないんだ。」
…千駿は、悪い意味で私に依存している。いや、縛られているという言い方の方が合っているだろうか。
私のせいで千駿は、私の傍から離れられない。幼い頃見たあの出来事は、自分のことじゃないにしても衝撃的だったんだろう。


