さっきまで階段にいた男の声が、すぐ真後ろから鼓膜を叩いた。


ゾクリ、ゾクリ。

悪寒が背中を走る。
ゆっくりゆっくり振り返り見上げた男。



「言ったよね?道連れだって。」

「いや、私はない。」

「は?」

「……、」


実に挑発的な「は?」である。その顔は明らかに私を馬鹿にしているもので。

千駿は捕食者まがいなその両眼をギラつかせながら、腰を屈め視線を合わせてきた。




「俺、真子は逃がさないよ?」

「っ…!?」


その声は、自信満々で。紡がれた言葉は私の脳を激しく揺すった。

くらり、目眩がする。急速に速さを増す心臓の鼓動、一気に上昇する体温。身体の奥の奥…芯が疼く。



嗚呼――…何だ、コレ。


混乱してしまうのは、多分、嫌いな男が間近でこんなこと言うから。