「別にとって食われるわけじゃないんだし。ね?」
「ちょっと気が楽になった」
「そうそう。自然体でいいのよ、自然体で。意識すると萎縮しちゃうからね、愛も芸も」
「芸?」
「ああ、ほら。あたしの彼って、役者の卵じゃない?」
何を表現したいのか、両手で大きく円を描く仕草をする。
「言ってたわね」
「顔も筋もいいのに、緊張しいなところはアンタと似てるから。活を入れてあげないと、すぐ強張っちゃうのよね」
以前聞いた(というか美咲が自分から自慢げに語り出した)話によると、彼はどこかの劇団員で、舞台役者を目指しているのだとか。
大学時代の同級生で、目指すわりに緊張癖があるという矛盾したギャップに母性本能が目覚めたらしく、以来、ことあるごとに世話を焼いているのだという。
美咲らしさが発揮できる彼だなと、私はここでもえらく納得した。
しっかりした彼女だからこそ、しっかりしてない男性を捕まえる。


